名古屋大学 大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻

  航空宇宙機運動システム工学研究グループ

  Aerospace Vehicle Dynamics Research Group  


CanSat開発

航空宇宙機運動システム工学研究グループの宇宙機グループでは研究だけでなく、実際に衛星開発を行うことで実践的な経験を積むことができます。
実際の衛星開発の前段階として、毎年B4~M1の学生を中心に模擬衛星であるCansatを製作しています。
開発したCansatは、アメリカネバタ州のブラックロック砂漠で行われるARLISSにて打ち上げ実験を行っています。


開発記




  • 2019 Actaeon


  • 2018 butterfly


  • 2017 castor

  • ARLISS2021

    複数の電磁石と永久磁石を用いた3機分離機構およびGPSによる相対位置検出結果の3機間相互通信の実証実験を行う 

    2021年度は、3機分離機構および3機間相互通信実証機YATAGARASUを開発しました。

    YATAGARASU

    ・YATAGARASU概要 

    本機の特徴は、落下中に3機分離を行うこと、着地後に3機間相互通信を行い、GPSデータから相対位置を検出することです。3機分離ではまず、親機のパラシュート展開後、親機に電源投入されて電磁石が通電します。そして、電磁石により親機と子機全体が分離した後、子機1のパラシュートが展開され、電源投入されます。するとテグスが切断され、子機1、2が分離します。最後に子機2のパラシュート展開および電源投入が行われます。3機間相互通信では、子機2、1の順でGPS情報を送信します。そして親機から3機分のGPS情報をまとめて地上局に送信します。また、3機間通信の再開コマンド、および2機間通信への移行コマンドを実装し、通信不能となった場合に備えました。これらのシステムは、4機以上になっても応用可能となっています。


    YATAGARASU
    ミッション全体の流れ

    YATAGARASU
    構造概要

    YATAGARASU
    通信概要

    YATAGARASU
    YATAGARASU機体

    ・ACTS結果 

    本年度はコロナ禍でARLISSには参加できず、11月20, 21日に静岡県のあさぎりフードパークで行われたACTSに参加しました。熱気球により上空約50mからCanSatを投下させ、そのときの挙動を確認しました。1日目は、機体投下後、親機のパラシュートは展開されましたが、分離は全くされませんでした。これは、電磁石の通電時間が空中分離するためには短いことや、機体を支える爪が開きにくかったことが原因と考えられます。また、着地後の相互通信も行われずGPSデータを取得できませんでした。2日目は、1日目の課題点を修正することで親機と子機全体の2機分離が確認されました。しかし、子機同士の分離は行われず、子機2は電源投入されませんでした。そこで、親機と子機1間で相互通信を行うモードに切り替え、親機のGPSデータを地上局で1度だけ取得できました。

    YATAGARASU

    YATAGARASU

    YATAGARASU

    ・反省と来年度への展望 

    結果としては、フルサクセスである、3機分離とGPS情報の相互通信および相対位置検出を達成することはできませんでした。しかし、技術力やミッションのアイデア性が評価され、テクニカルシステムアワード3位、ベストミッションアワード2位として受賞させて頂きました。今年の反省点としては、投下中の分離を模擬した試験が行えずそれへの対策が不十分であったこと、ソフトウェアのアルゴリズムが複雑化し挙動が不安定になりやすかったことが挙げられます。技術的な観点だけでなく、衛星開発の難しさという体験を、来年度のCanSatプロジェクトや、実機製作のCubeSatプロジェクトにも生かせたらと思います。


    ARLISS2019

    複数の電磁石と永久磁石を用いた分離機構およびオンボードで実時間分離確認の実証実験を行う 

    2019年度は、分離機構実証機Actaeonを開発しました。

    Actaeon

    ・Actaeon概要 

    Actaeonの特徴として以下のものが挙げられます。
    ・マイコン基板の開発
    ・電磁石を用いた磁気分離
    ・通信システム
    マイコン基板はメンバーで一から設計を行い、9軸センサ、SDカード、GPS、通信機を搭載した汎用基板を開発しました。磁気分離は今年度のメインミッションであり、4系統の永久磁石と電磁石による親機、子機の把持及び分離をフルサクセスとしました。さらに分離タイミングの制御と、搭載センサを用いた磁気、角速度データの取得による分離の確認を狙い設計しました。分離後は両機による相互通信を想定し、事前試験では通信距離5kmを達成しました。


    Actaeon

    ミッション概要図

    Actaeon
    Actaeon機体

    ・ARLISS結果 

    1日目と3日目にそれぞれ打ち上げを行いました。 1回目は、親機・子機が分離していない状態で発見しました。雲が出ていたので、水滴によって回路がショートし、過電流供給によるバッテリの停止が原因で機体に電源が入らず、分離も起こらなかったと考えられます。2回目は快晴、無風の状態で打ち上げを行い、肉眼での分離を確認できました。回収した機体のSDカードに角速度等の情報が記録されておりませんでしたが、カメラでの撮影は成功しました。撮影とプログラム上での分離時間の一致によりフルサクセス達成を確認しました。

    Actaeon

    ・反省と来年度への展望 

    今年度は本研究室で2022年打ち上げ予定である、超小型人工衛星Cubesatのミッションである磁気分離システムの実証実験を行い、フルサクセス達成まで至りました。前年度は機体をロストしているため、回収のために可能なことを全て行うことで,CanSat分離時から発見まで絶えず位置情報を補足できました。
    結果としてUNISEC WORKSHOPにてCanSat Working Groupプレゼン賞を受賞することができました。
    今年の反省としては、雲中の水滴が原因と考えられる電源停止、SDカードへの保存の失敗など、上空における環境を模擬した試験を実施できていなかったことが挙げられます。来年度のCansatプロジェクトではこの課題をぜひ解決したいと考えています。また、この経験はCubesat製作にも活かせるものと捉え、開発を進めていきたいと思います。


    ARLISS2018

    宇宙膜構造の展開と膜上大電流回路の動作実証を行う 

    2018年度は、宇宙膜構造実証機butterflyを開発しました。

    KMY

    ・butterfly概要 

    本機体の特徴は膜展開機構と膜上大電流回路です。弾性ブームにより展開する膜構造を有しており上空での展開実証を行いました。また、電磁力による宇宙膜の展開や姿勢制御を見据え、膜上の銅シートを流れる大電流による磁場変動を用いた膜形状推定をフルサクセスとし開発を行いました。加速度センサ・磁気センサ・ジャイロセンサ・SDカード・GPSレシーバ・通信機などが搭載されており、膜展開による機体の挙動の変化や飛行経路の記録を行いました。 基板や機体構造についてはメンバーで一から設計・製作するなど、衛星開発の基本を学ぶことができました。


    KMY

    ミッション概要図

    KMY
    butterfly機体

    ・ARLISS結果 

    ARLISSでは1日目に打ち上げを行いましたが、機体が強風によって通信可能範囲外に流されてしまい、大会期間中に機体の回収を行うことができませんでした。しかし幸運にも、後日現地関係者の方により機体が発見され、膜展開とデータ取得に成功していたことがわかりました。磁気データの解析によりブームが折れ曲がった状態で降下したことが推定され、搭載カメラの映像によりその様子も確認されたことから、磁気による膜形状推定を達成したと判断しました。


    帰還したbutterfly


    ・反省と来年度への展望 

    本年度はミッションである膜の展開と形状推定を達成することができました。また、前年度の反省を活かし、打ち上げ直前の確認手順に関して十分な検討を行った上で当日に臨むことができました。回収したデータから、目標としていた膜展開と大電流回路の動作も確認でき、研究やこれからの衛星開発につながる成果を得ることができたと考えています。今年度はARLISS当日に機体を回収することができず後日の回収となりましたが、来年以降は今回の反省を活かし落下地点の予測や回収マニュアルの作成に力を入れ、回収確率を高めていきたいと思います。来年度のCanSatプロジェクトにご期待ください。


    ARLISS2017

    磁気ドッキングシステムを実証する 

    2017年度は、研究室初号機として、磁気ドッキングシステム実証機Castorを開発しました。

    KMY

    ・Castor概要 

    本機は大型電磁石を搭載した親機と、小型永久磁石を搭載した子機で構成され、電磁石の電流を制御することにより、子機の分離・把持を行う磁気ドッキングシステムの実証をフルサクセスとして見据え、開発を行いました。 親機には電磁石のほか、加速度センサ・磁気センサ・ジャイロセンサ・SDカード・GPSレシーバ・通信機・サーボモータが搭載されており、一通りの衛星機能の作成訓練を兼ねています.また、子機底面には小型カメラが搭載されており、磁気ドッキングの達成状況を確認できるようになっています。

    KMY

    ・名前の由来 

    Castorはふたご座α星のカストルから名づけられました。これは磁気ドッキングを行う2機があたかも双子の様であること、カストルが6重連星系であり、本年度の開発メンバーの数(M1:3人、B4:2人、指導教員:1人)と一致していることに由来しています。また、特に親機をカストル、子機をポルックスと呼び、それぞれの機体色も恒星の色(銀星・金星)に合わせたものとなっています。

    ・ARLISS結果 

    ARLISSでは1日目と3日目にそれぞれ打ち上げを行いました。1回目はパラシュートの紐が親機と子機を繋ぐアームに絡まったことによる子機のスイング機能ロスト、2回目はSDカードの挿入エラーによるMOBC機能ロストを引き起こしてしまい、残念ながら磁気ドッキングの実証というフルサクセスを達成することはできませんでした。しかし、各センサによる情報取得、地上局との通信、子機カメラによる画像取得には成功し、ミドルサクセスを達成することができました。

    KMY

    ・反省と来年度への展望 

    本年度は研究室で初のCanSat開発ということもあり、何もかもが手探りの状態でした。メンバーも少ない中、本番でミドルサクセスを達成できたことは一つの成果として捉えてよいと考えています。しかし目的とした磁気ドッキングは達成できておらず、これは打ち上げ直前の確認手順・アノマリーに対する対策の検討が不十分であったことが原因と考えています。今回の経験を反省し、来年度のCanSat開発、将来のCubeSat開発に活かしていきたいと思います。


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